皆様、新年あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い致します。
今年の第一回目のテーマは社会保障制度についてご案内したいと思います。
2015年1月から、70歳未満の高額療養費制度が改正されました。高額療養費制度では所得別に自己負担の上限を定めており、従来は「上位所得者」「一般所得者」「低所得者(住民税非課税)」の3段階であったものが、2015年1月からは5段階に細分化されました。比較的低所得の世帯においては自己負担額の上限が引き下げられた一方、比較的高所得の世帯においては自己負担額の上限が引き上げられました。高額療養費制度は、保険診療について、医療機関や薬局の窓口で支払った額が、暦月(月の初めから終わりまで)で限度額を超えた場合に、その超えた金額が申請により還付される制度です(健康保険組合によっては申請が不要な場合もあります)。なお、あらかじめ「限度額認定証」の交付を受けて医療機関に提出しておけば、窓口での負担額は最初から限度額の範囲となります。この限度額は、年齢別(70歳未満か、70歳以上か)・所得別に定められており、2015年1月から、70歳未満の区分について見直しが行われました。2014年12月以前から引き続き治療を受けていたり入院していたりする場合も、2015年1月以後の診療分から新制度に切り替わります。
2014年12月までは、所得区分は「上位所得者」「一般所得者」「低所得者」の3段階でした(図表1)。「上位所得者」に該当するのは被用者保険(組合健保、協会けんぽ、共済組合)の場合で標準報酬月額が53万円以上となっていました。また、「低所得者」に該当することになる住民税非課税世帯の基準を満たすのは、現役世帯ではごく一部に限られていました。結果として、現役世帯の多くは「一般所得者」に該当していたものと考えられます。
図表1 70歳未満の高額療養費制度の月の限度額(2014年12月以前)
所得区分 | 月の限度額 | |||
被用者保険 | 国民健康保険 | 通常 | 多数回該当 | |
上位所得者 | 標準報酬月額 53万円以上 |
旧但し書き所得が 年600万円超 |
150,000円 +医療費の1% |
83,400円 |
一般所得者 | 「上位所得者」にも「低所得者」にも該当しない | 80,100円 +医療費の1% |
44,400円 | |
低所得者 | 住民税非課税世帯 | 35,400円 | 24,600円 |
(注)12ヵ月以内に4回以上高額療養費が支払われることとなったとき、4回目から限度額は「多数回該当」欄の金額に軽減されます。
旧但し書き所得とは、住民税の総所得金額等から33万円を引いた金額です。
2015年1月以後の月の限度額は図表2のとおりです。限度額は所得区分によってア~オまで5段階に細分化されました。
図表2 70歳未満の高額療養費制度の月の限度額(2015年1月以後)
所得区分 | 月の限度額 | |||
被用者保険 | 国民健康保険 | 通常 | 多数回該当 | |
ア | 標準報酬月額 85万円以上 |
旧但し書き所得が 年901万円超 |
252,600円 +医療費の1% |
140,100円 |
イ | 同53〜79万円 | 167,400円 +医療費の1% |
93,000円 | |
ウ | 同28〜50万円 | 80,100円 +医療費の1% |
44,400円 | |
エ | 同26万円以下(住民税非課税世帯を除く) | 57,600円 | 44,400円 | |
オ | 住民税非課税世帯 | 35,400円 | 24,600円 |
まず、これまで「上位所得者」とされてきた区分が「ア」と「イ」の2つに分かれました。「ア」に該当する場合(被用者保険の場合、標準報酬月額83万円以上)では、月の限度額が25万円を超えることとなり、従来と比べ10万円以上引き上げられています。「イ」に該当する場合(被用者保険の場合、標準報酬月額53万円〜79万円)でも限度額は従来と比べ月2万円ほど引き上げられています。
高齢化に伴い国の医療費が増大する中で、新制度では比較的所得の高い世帯については、「医療費はなるべく自己負担で」とする意図があるようです。もっとも、所得が多い世帯が必ずしも貯蓄を多く蓄えているわけではありません。世帯年収が1,000万円以上1,200万円未満の世帯においても21%は金融資産を保有していないという統計もあります(金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査(平成25年)」)。 比較的所得の高い世帯においては、改めて、入院などにより多額の医療費が必要になった際の備え(医療保険、貯蓄など)があるのか確認すべきでしょう。
2015年1月以後は、これまで「一般所得者」とされてきた区分も「ウ」と「エ」の2つに分かれました。「ウ」に該当する場合(被用者保険で、標準報酬月額28万円〜50万円)の限度額は従来と同じく約8万円です。一方で、「エ」に該当する場合(被用者保険で、標準報酬月額26万円以下で住民税課税)の限度額は月57,600円に引き下げられました。「エ」の区分は他の区分と異なり、医療費の1%の自己負担はなく、保険診療分(食事代、差額ベッド代等を除く)については月57,600円を上限とする負担で済むようになりました。現役世帯にとって「住民税非課税」という基準はずいぶんと厳しく、給与収入換算で単身世帯の場合は年収100万円ほど、扶養者3人の4人世帯でも年収200万円台で住民税は課税され始めます(自治体により差があります)。このため、比較的低所得の世帯であっても、従来の基準では「低所得者」には該当せず、上限月約8万円の自己負担をしなければなりませんでした。今回の改正は、比較的低所得の世帯にとっては朗報といえます。
組合健保の中には医療費が高額になった際の上乗せの給付(付加給付)が設けられているところもあります。ある組合健保では、自己負担額から、「2万円と医療費から267,000円を控除した額に1%を乗じた額の合算額(一般の場合)」を控除した額が払い戻されます(一部負担還元金)。こういった付加給付についても、高額療養費の改正に伴い、変更されている組合健保もありますので、組合健保に加入している場合には、合わせて確認しておく必要があるでしょう。
高額療養費の見直しに伴い、「高額医療・高額介護合算療養費制度」も2014年8月より変更が加えられており、2015年8月に再度変更される予定です。この制度は、1年間に支払った公的医療保険の自己負担額と公的介護保険の自己負担額の合計が、一定の基準額を超えた場合に、その超えた額を支給する制度です。基準額と見直しされる箇所は、図表3のとおりです。こちらについても確認しておきましょう。
図表3 高額介護合算療養費制度の見直し
後期高齢+介護保険 | 被用者または国保+ 介護保険(70歳〜74歳がいる世帯) |
被用者または国保+ 介護保険(70歳未満がいる世帯) |
|
標準報酬月額 83万円以上 |
67万円 | 67万円 | 176万円→212万円(※) |
同53〜79万円 | 67万円 | 67万円 | 135万円→141万円(※) |
同28〜50万円 | 56 | 56万円 | 67万円 |
同26万円以下 | 同26万円以下(住民税非課税世帯を除く) | 63万円→60万円(※) | |
低所得者I | 31万円 | 31万円 | 34万円 |
低所得者II | 19万円 | 19万円 | 34万円 |
一般の方にとって、被用者保険で所得区分を判定する際の「標準報酬月額」という概念はほとんど知られていないものと考えられます。「標準報酬月額」は健康保険および厚生年金において保険料および給付を算定する際の基準となる給与月額です。標準報酬月額は入社時および年に1度の定時改定があり、9月から翌年8月までを1年度として1年間は原則として固定されます。残業代等により給与が変動しても原則として1年間は標準報酬月額は動かないため、「月給」の金額と「標準報酬月額」とが乖離していることもしばしばあります(昇進・昇給・降格などにより固定給が大きく変動した場合は年度の途中でも標準報酬月額が改定されることがあります)。自分の「標準報酬月額」を知るためには、給与明細における「総支給額」ではなく「健康保険料」の控除額を確認します。健康保険料の控除額を自分の健康保険制度の労働者負担分の保険料率で割ると、標準報酬月額を簡単に求めることができます。例えば、東京都の協会けんぽに加入している場合、2014年度の労働者負担分保険料率は4.985%です。健康保険料の控除額が11,964円であれば、11,964円÷0.04985=240,000円となり、標準報酬月額が24万円であることが確認できます。加入している健康保険制度の保険料率が分からない場合、厚生年金の保険料率を用いて標準報酬月額を求めることもできます。厚生年金の控除額から厚生年金の労働者負担分保険料率(2015年9月控除分までは8.737%)で割ったものが標準報酬月額となるのです。ただし、厚生年金基金の加入者は、保険料率が異なるため、この方法では計算できないこと、および、厚生年金の標準報酬月額の上限は62万円であるため、標準報酬月額が83万円以上か否かを判定する際にはこの方法は使えないことに注意してください。
2015年1月以後、医療費の自己負担限度額が5種類に細分化されることとなるため、先ずはご自身の標準報酬月額がどの種類に該当するのか確認しましょう。それに応じて対策を打たなければ行けない方もいるかと思います。対策の取り方はお持ちの資産状況、家族構成などでバラバラですが現状を把握する事が一番の対策かと思います。健康診断を一年に一度受信するのと似ていますが家計・資産の健康診断も一年に一度は確認してみてはいかがでしょうか。
小田ファイナンシャル・コンサルティング
代表 小田 誠