現地発「ドイツのペット事情レポート」
第五回 ティアハイムは動物たちの命の尊厳を守る場所

すべての動物が幸せになるように…。
ドイツのティアハイム

「ティアハイム」 ペットに対する人間社会の責任。

ドイツでペットを手に入れる方法の一つとして、動物の保護施設、ティアハイム(Tierheim)から引き取ることもあると、前章でお話しました。このティアハイム、ドイツ語で動物の家、という意味で、さまざまな事情で飼い主の元にいられなくなったペットが保護され、新たな飼い主に引き取られるまで過ごすことができる場所です。そしてもし引き取り手が現れなかったとしても、終生をここで過ごすこともできます。これがドイツに捨て犬や捨て猫の殺処分がない理由です。

全国に約1,000軒。ティアハイムの役割や取り組み。

このティアハイムはドイツ動物保護連盟などの保護団体の傘下で全国に合わせて1千軒近く存在し、主に個人や一般企業の寄付と地方自治体の補助や公益団体の後援を受けながら、専属の従業員の他、多くのボランティアスタッフの支えによって運営されています。動物たちは動物保護法に沿った住環境や飼育方法で収容され、必要に応じて医療も受けることができます。

ここにやってくる動物たちの事情は本当にさまざまで、飼えなくなった事情を抱える飼い主自身が持ち込むこともありますが、その他飼い主が亡くなった、迷子になり身元不明のところを保護された、虐待を受けていたところを保護された、などです。また無人の家に長時間放置するなど、飼い主の無責任な扱いが虐待とみなされ、近所の人が行政に通報した後にティアハイムに引き取られるケースもあります。そうした以前の環境のせいで心身に問題がある動物はここで治療を受け、次の引き取り手へ紹介できる状態になるまで様子を見ます。そこへ新たな引き取り手が現れたとしても、その飼い主となる人物が責任をもって飼うことができるか、ティアハイムの担当者と話し合いをもって慎重に決められます。例えば犬の場合、飼い主が仕事などの理由で犬に何時間も留守番させないような環境を整えられるか、また飼い主との相性についても話し合われるのです。

またティアハイムは動物を預かったり、紹介するだけでなく、見学にやってきた子供たちが収容されている動物たちとのふれ合いを通して、動物との関係を学べるような教育プログラムなども提案していたりします。人間社会における動物たちの命の尊厳や生活環境の改善を提起している場でもあるのです。

ティアハイムの始まり

ドイツ初のティアハイムはシュツットガルト

ティアハイムの始まりは、さかのぼること1837年。南ドイツの都市、シュツットガルトの牧師であるアルバート・クナップ(Albert Knapp)が動物保護の団体を設立したことがきっかけとなりました。その後またたくまにミュンヘンやフランクフルト、ドレスデンなど、他の都市にも同じような動物保護団体が設立されていきます。病気になった家畜やペットの保護、飼育環境の改善を目指したこのシュツットガルトの団体は、その後約20年の間に2千人の会員を持つ規模となり、その多くは公務員や教師、牧師などの職業につく人たちだったといいます。そして1912年、この団体は新たに場所を借り、ドイツで初めてのティアハイムを設立します。49室を備えたこのティアハイムにはますますサポーターや会員が増え、1916年からは、日本でも知られるシュツットガルトの工業メーカー企業であるボッシュ(Bosch)がこのティアハイムのスポンサーとなっています。

犬、猫、馬や各種小動物には虫類などの飼育室、そして動物医院も備えたこの施設には、犬が約100匹、猫が約60〜80匹、小動物が約400匹、その他合わせて常に約600匹が収容されており、その施設維持費は年間約150万ユーロ(約2億2百万円)もかかるそうです。ボッシュのような大企業と多くのサポーターの寄付に支えられながらも、やはりこの費用を得るのは並みならない努力が必要だといいます。

シュツットガルトのティアハイム(Tierheim Stuttgart)
https://stuttgarter-tierschutz.de/(ドイツ語のみ)

ドイツ最大、ヨーロッパ最大のティアハイム

なんと、年間維持費は約11億円

全国に点在するティアハイムですが、中でも欧州最大のティアハイムが首都、ベルリンにあります。1901年に設立されたこのティアハイムは現在、敷地面積16ヘクタール(東京ドーム約3.4個分に相当)を持ち、約140人の従業員と約600人のボランティアによって運営されています。犬、猫、ウサギなどの小動物に鳥、は虫類、そして家畜として飼われていた動物たちが、年間約1万4千頭引き取られています。基本的にベルリンで保護された動物のみ受入れることになっており、この大きな収容数にもかかわらず、驚くことにそのほとんどが1年内に新たな飼い主と出会って引き取られていくといいます。他のティアハイムと同じく、病気や年老いた動物はやはり引き取られるまでに時間がかかるようですが、万一引き取り手が現れなくても、その終生をここで過ごすことが保障されています。

このティアハイムの年間維持費は約800万ユーロ(約10億8千万)で、そのうち行政からの補助金は約7〜8%程、残りは一般企業やこのティアハイムの友の会の会員など、合わせて2万5千人程のサポーターからの寄付などで運営されています。

ベルリンのティアハイム(Tierheim Berlin)
http://www.tierschutz-berlin.de/(ドイツ語のみ)

人気テレビ番組「動物たちのお家探し」

ティアハイムを覗いてみよう

このようにドイツではティアハイムでペットを入手することは一般的であり、また各動物団体からも推奨されていますが、その様子を垣間見ることができるテレビ番組があります。「Tiere suchen ein Zuhause(動物たちのお家探し)」という毎週末放映のこのテレビ番組、WDR(西ドイツ放送局)制作で既に25年以上続いている人気長寿番組です。番組内では毎回違うティアハイムから、新しい飼い主を探している動物たちがケアワーカーに連れられて登場し、ティアハイムに来ることになったいきさつや心身状態、性格についてなど、細かに紹介されます。また番組終了後も、この番組のホームページやFacebookなどでさらに各動物たちの詳細を見ることができます。

登場する動物たちは実にさまざまです。犬や猫やウサギが多いのですが、ときにはハムスターやカメ、オウムや馬なども登場します。また目が見えなかったり、片足を失っていたりと、心身共に障がいを持っているものや、つがいで引き取ることが条件になっていたりと、なかなか大変な事情を持った動物たちもよく登場しますが、それでも実際に番組を通して引き取られる動物も多いそうです。

「Tiere suchen ein Zuhause」番組ホームページ
https://www1.wdr.de/fernsehen/tiere-suchen-ein-zuhause/index.html

この番組でときどき登場するのが、ドイツ国外で保護された動物たちです。例えばスペインやポーランドなどで虐待されていたところを助け出され、ドイツのティアハイムに連れてこられた、など、ドイツのティアハイムは外国のペットにも手を差し伸べるのかと驚いたものです。もちろんこれはドイツ人もしくはドイツ内の施設に繋がりのある人が保護したゆえのケースですが、最近では野性の動物が親や仲間とはぐれたり、怪我や病気の状態で発見されたところをティアハイムに保護されるケースも増えています。

ティアハイムの抱える問題

ひっ迫した財政状況、堕落したモラル…!?

しかし近年、ひっ迫した財政状況が理由で閉鎖せざるをえないティアハイムが増えてきていると問題になっています。そもそも一般の寄付とボランティアの助けによって成り立っているティアハイムの運営ですが、困難な状況を切り拓くために、一時的なペットホテルとして預かり料を得るサービスを導入するなど、さまざまな財政案を打ち出したりしているようです。しかし対して保護される動物の数は増える一方で、どこのティアハイムでもお金のやりくりは頭の痛い問題になっています。

その一因は先に述べた外国からの動物や野性動物の保護が増えていることにもありますが、一方で、後先を考えずにペットを購入し、飼い切れなくなったらティアハイムに預けてしまうという無責任な飼い主も増えているという背景があるそうです。ドイツでのペットの購入先はブリーダーかティアハイムが一般的であるものの、中には国外から輸入した低年齢のペットを安く販売する業者から気軽に買ってしまう人がいることも事実で、もちろん各動物団体は、そうした業者からの安易な購入をいさめています。ティアハイムにペットを預けること自体は違法ではなく罰則もありませんが、先述のベルリンのティアハイムでは、預ける際には手数料を支払う決まり(預ける動物の種類や健康状態によって金額は変わるが、数百ユーロ程度)になっています。

ペットに対する人間社会の責任としてティアハイムの存在がある一方、それがまた飼い主のモラルを堕落させる一因にもなっているのは皮肉なことです。ベルリンのティアハイムのホームページにはこうあります。「飼い主としての責任をもう一度考えてみましょう。ペットを手放すことは、家族の一員を手放すことなのです」

しかしティアハイムから動物を引き取りたいという人たちも数多くいます。先述のテレビ番組では、サッカー・ブンデスリーガのクラブ、ボルシア・ドルトムントのキャプテンであるマルセル・シュメルツァー(Marcel Schmelzer)選手がイタリアで保護された小犬を引き取った様子が紹介されていました。ティアハイムからペットを引き取ることは、ドイツではまったく一般的なことであり、またティアハイムへの寄付も気軽にすることができます。(たいがいのティアハイムのホームページには、大口スポンサーの名前やロゴと共に、一般募金の受付先口座や問合せ先メールアドレス(ドイツ語か英語のみ)も記載されています)

ティアハイムにしろ、ペット保険にしろ、こうした制度やサービスには、すべての生きものの命を尊重しようとするドイツ人の思想と社会事情が表れていると感じます。多くの人が支えてきたティアハイムは、この先も存続の道を模索しながら運営され続けていくことでしょう。

※ 1ユーロ=約132円(2017年12月現在)

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執筆者紹介

川元アキ
ドイツ在住十数年のドイツ語•英語の翻訳ライター。動物の保護施設「ティアハイム」を紹介する番組制作に関わるTVマンのドイツ人夫と暮らす。
若い頃は料理や読書が趣味、とインドア派だったのが、天気がよければサイクリングやハイキングへ、とアウトドア派になったのは、長年のドイツ生活ゆえ。ワインやチーズも好きだけど、やっぱり塩辛と吟醸酒が最高だね!というのが本音。ゆえにドイツの自宅で味噌や納豆も仕込む。持ち前の好奇心で、あらゆる文化や社会のトピックを探して発信中。

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